台湾24時間走、参戦記⑥

レースは12時間を過ぎた頃から雨が降り始めた。
転んだ傷が雨で濡れて、またまた強烈な痛みが〜。
特に顔の傷は何も貼っていないのでジンジン。たまらん!


転んだ事を☆のみんなに知られて心配掛けたくないから出来るだけ
平静な顔して走ってたが、伝言ゲームのようにすぐに知られちゃった〜。
井上さんまでも心配して駆け付けてくれた。
“大丈夫そうです。走れてますからっ!気合で治しますからっ”と
自分に言い聞かせる様に答える。
痛くても、6分15秒から30秒くらいのペースをなら走れるので
何とか100マイルまでは
粘れるだけ粘って、ネチネチ走ってやるのだ!


降ったり止んだりだった雨も、だんだん本降りになり身体が冷えてきた。
重ね着をした上にビニール袋を被って走る。
凸凹だらけの道は水溜りがあちこちに有り過ぎで、避けようがない。
避けて走るには蛇行して進むしかない!
でも、そんな事したらもったいない。

特にスタート地点付近はツルツルな石畳になってる上、一面が水浸し。
ジャバジャバ足音を立てながら、滑らないように慎重に走るしかない。


そこへ、第二の試練が私を待ち受けてた!
強烈なお腹の痛み。
コース上には使えるトイレは一ヶ所だけなので、そこへダッシュ〜。
ピーピーピーちゃんになってしまったよぉぉぉぉぉ。
もー、そこからが大変。
すっかりトイレとお友達に。

このお友達は簡易式でしかも和式なので、全く使い心地が悪い。
高い段差に上がらなきゃ行けないし、電灯が点かないので暗い密室で、
辛い姿勢は、ただただ・・・哀しい。
下痢止めを2回飲んだが全く効き目がないどころか気持ち悪くなった。
水分を少し取っただけでも、トイレへGO!


ひどい時は一周毎に通った。
3時間くらいの間に10回はトイレに行ったはず。
飲めない食べれない状態の上、一回毎のトイレで体力を奪われ、
魂を抜かれて行く気がするよ〜。
疲労困憊や。
フラフラになっても走り続けてたが、キロ7分以上かかるようになり、
やがて歩きも入れないと一周回れなくなってしまう。


tsatoくんに“目がいっちゃってますけど、大丈夫ですか?”と声を掛けられた。
エイドにはkamaiさんが休憩を取っていて、“もう止めたい”と弱音を吐いちゃっ
た…。
カイロをtsatoくんにもらってお腹や背中に貼って温めてみる。
今のペースだと200キロオーバーは残り時間から計算しても無理のようだ。
本当に情けない…。
何の為に台湾まで走りに来たんだろー。
エイドの椅子に座り、“5分たったら起こして”と
サポート女子大生のさきちゃんに頼んで寝た。


きっちり5分後に“5分経ちました”と申し訳なさそうに彼女が教えてくれる。
私のカラダの事をすごーく、すごーく心配してくれてるのが痛いほど伝わってくる。
ごめんね、心配掛けて。


気持ちを切り替えるしかない!
最低限度の事はやっておかないと日本には帰れん。
目標を190キロオーバー、オープン女子の3位に切り替えた。


足取りは相変わらずフラフラだけど、気持ちだけは再び取り戻す事が出来た。
後半で食べたものは、ヨーグルト1個、りんご1片、黒飴1個、
コーンスープを一口、おでんの汁を一口、あとアミノバイタル入りゼリーを1個。
水分は口の中を湿らす程度にしか取らなかった。
もうこれ以上トイレに行きたくないので、飲んだり食べたりするのが怖い。


☆のメンバーもそれぞれが戦っていた。
ナマステさんは、フラフラすると言って倒れこんでしまって
担架で救護室に運ばれ点滴を2本も打った。
オクムの魔さんは、膝が痛み出し思い通りのペースで走れない。
健ちゃんは何度も脚を攣らせていた。
tsatoくんは足底筋を痛めて辛そうだ。
kameiさんは気持ち悪くなって、何度も吐きそうになっている。
マックさんは最後まで膝の痛みと戦っていた。
のんのんコーチも・・・何かトラブルがあったのか救護室で
マッサージを受けていた様子。


あんなにたっぷりどっぷりあった24時間も、
どんどん無くなって行く。
私・3位と4位の差は一時は10周以上あったのに
どんどん差を詰められ、3周差に。
元気を取り戻したKameiさんが、『どれくらいの位置にいるか見てきてあげる〜』と
軽快なピッチで、4位の女性を探しに行ってくれた。


とうとう、残り1時間。
4位の女性は私の50メートル後ろにいるらしい。
このまま抜かされると、2周差に。
しかもペースを上げてる彼女に比べて、私は必死で走ってもキロ7分は切れない。
どっちかと言うと・・・早歩きに近い走り。
でも、逃げ切るしかない!
ほんとに必死だった!逃げろ、逃げろ、逃げろーーーーー!

おまけに、自分が今何周してるのかが、全く分からないのだ!
自分の時計で周回ラップを取っていたのだが、
学生の子が取ってるカウンターの数字と合っていない。
私のペースがめちゃくちゃで、カウンター前をいつ通るか分からない状態なので
たくさんのランナーが一気に通過すると、
私の姿を見逃してしまう事があるようだ。


チップで取ってる周回数はモニターに連動してタイムリーに見れるはずなのだが
途中何度も止まってしまって、周回数が増えていかない。
また学生達が、そのモニター前にも陣取って応援してくれてるので全く見えないことも。


あー、190kmオーバーにも届いてないかも・・・。


そして残り10分前になると、一人ずつ自分のゼッケンナンバーが書かれた
丸い形をした重りのような物を渡される。
これをタイムアップと同時に自分のいる場所に置くのだ。


結局、4位の彼女には抜かされることはなかった。
私もほんの少しだけど、ペースアップが出来ていたようだ。
3位を守りきった事を確認出来た。


最後の一周は、この24時間の出来事がすべて嘘だったかのように
なぜかとても幸せな気分だった。
優しくて濃密な時間をコース上にいるすべての人たちと分かち合う・・・。


ゲートをくぐったのが、十数秒前。
カウンター前をたくさんの学生たちとハイタッチしながら駆け抜ける。
そうすると、kameiさんが飛び切りの笑顔で
“ここだよ、ここが終わりだよ!”と迎えてくれる。
一瞬、言ってる意味が分からず・・・もしかして24時間のタイムアップが聞こえず
私は走り続けてしまったのかと不安になる。
最後にズルしたみたいでイヤじゃん。


kameiさんが地面を指差す。
そこには・・・数個の重りが並んでいる。
☆のメンバーのKameiさん、ナマステさん、マックさんの重り。
みんな、ニッコニッコの笑顔だ!
私も、重りをその横に並べた。
ふと選手権側を見ると、そこにはのんのんコーチが。


みんなで、24時間のゴールを迎えた!!!!!
 


側にいるランナー、学生達と次々に握手を交わす。
そこへRinちゃんが!
わたしはRinちゃんに抱きつき“辛かったよ〜〜〜〜”と
号泣してしまった。


ほんとに、長い長い24時間のレースだった。
過去のレースの中でこんなに辛いレースは経験ない。
ダントツの一番。



264周。
公式記録193.324km