荒川100km マラソン完走記

10月1日。AM02:01 ギリシャから一通のメールが届いていた。
『やったよ!』
スパルタスロンを完走したRinチャンからだった。
私はこのメールを2時間後に読むことになる。


レース三日前である木曜日の夕方から体調がおかしかった。とにかく食べたモノはすべて嘔吐、下痢。
金曜は会社を休んで病院へ。
熱も出てきた。
私が走っていることを知っている医師は『まさか週末フルマラソンじゃないでしょうね?無理はダメですよ』と。
とても明後日にフルではなく100kmだとは言い出せなかった。
とにかく治せばいいのだ。
2日間はほとんどベッドの中。固形物は食べれない。水分だけは多めに取る。
でも心の中では迷っていた。
ヤメヨウ…。ヤメタクナイ…。ダイジョウブ…。ムリ…。

そんな頃、☆の仲間が闘っている。遠くギリシャで。
そして、Rinチャンから届いたメールが私の背中を大きく押してくれた。
スパルタを制限時間5分前でゴールした彼女。
彼女が自分の力で掴んだゴール。
私もやらないとだ。
彼女に続くんだ!
『よしっ、Rinチャン、行くよ!』とベッドから飛び出した。
戦闘モードにスイッチON。

そして今日のスタート地点、荒川砂町水辺公園へ。
あっ、電車の中で忘れ物に気付く。
エストポーチ。
このポーチにレース中必要な薬が入っている。
どうしよう…。
引き返す時間はない。

そうだ!応援に来てくれる予定の☆仲間、ネネちゃんに持って来てもらおう。
早速メールを入れてみる。
6時前なのにすぐに『了解です』の返信。
ネネちゃんを起こしてしまった…。ごめんね。
でも、本当にホッとした。信頼出来る仲間が私にはいる。何て恵まれているのだろうか。

会場に到着しゼッケンを受け取り、早速マイエイドを設置。
ビニールシートに小型BOXを置いて、スペシャルを入れておくだけなんだけど。
今回の『荒川100kmロマラソン』は第一回開催。
制限時間10時間。
コースはまず下流に向かって500m走り、折り返してスタート地点に戻って1km。そして上流に4.5kmでまた折り返す。計10km×10回で100km。
RCチップで計測。1km表示有り。ちょっとした坂が途中にある。往復だと20回。こうなるとデッカイ坂一つ分だ。
エイドはスタート地点と4km地点。
そして、5.5キロ地点の折り返しで胸のゼッケンに『手動』でパンチを開ける。
この手動がクセモノだった。一度しっかり止まらないとパンチがやりにくいらしい。しかも一例にパンチを並べたいらしい。
中々うまくいかないらしい。折り返しランナーが重なる時は当然だけど並んで待つ。毎回5秒以上要する。
パンチを奪い取って自分で穴を開けたい。


そして、8時にスタート!参加人数が80人弱なので混乱する事もなく前方からスタート出来た。

左腕には今日の5kmごとのラップを、そして右腕にはサプリを取るkm表示を油性マジックで書いておいた。
設定したペースは5分30秒。
このペースでずっと走れば9時間10分でゴール出来る。エイドやトイレの時間と後半の落ち込みも考えて出したペース。

今回用意したサプリは、メダリスト、アミノバイタル、カーボショッツ、パワージェル、アミノバイタルゼリーの5種類。
5km毎に一つを取る予定。レース中に口に入れたのはお水とコーラとこのサプリのみ。
あっ、最後の最後にバナナを一口だけ食べたっけ。

固形物は今日の状態ではちゃんと消化出来るとは思えないので、食べない作戦にしてみた。


天気予報では曇りだったが、前半は弱いけれど日差しが出てきた。
上流に向かって走る時には風もあった。
色んなコトを計算しながら自分のレースの世界に入って行く。
景色も余り見ていないから、単調だと思うことさえなかった。
時間があっという間に過ぎていく。


☆の仲間が途中で伴走をしてくれようとしたのだが、私はこれを贅沢にも断ってしまった。
もちろんペースは安定するかも知れない。
辛い時に引っ張ってもらえるのはありがたい。

でも、自分のペースで走りたいのと、集中したいので断ってしまった。
標数字はサブ9.5だけれど、私はこのレースに賭けていた。記録をただ出すのではなく、自分の力を試してみたかったのだ。
どこまで自分の力はあるのか?
その為には、自分で走りたかった。
私にしか出来ない、私自身が作ったレースをしてみたかったのだ。


5時間が過ぎた頃からポツリポツリと雨が降り始めた。
雨女の本領発揮だ。
最初は降ったり止んだりの雨も段々と本降りに。
しかし、私は走っていても雨はいっこうに気にならない状態だった。
雨がもう一段階高い集中を生み出してくれたのだ。
ただ走っている私と違って、応援のみんなはきっと寒いはずだ。
55分に一度しか現れない私をみんなはこの雨の中待っていてくれてるのかと思うと、申し訳ない。
でも私がみんなの気持ちに答えられる唯一の方法は『帰ってくる』…みんなの待つ場所に帰ってくるコト。
これを繰り返すコトが私の集中力の源になった。


でも…ウルトラは最後まで何が起こるか分からない。
そして、私に起こった試練は『転倒』
台湾に続いてまたもや転んでしまったのだ。
コースには何ヵ所か整備されていない道があった。
3km地点辺りには砂利道が続いていた。そこを通る時はいつもランナーが作ったワダチを利用していた。
しかし雨でそのワダチが時間を追うごとにドロドロになってきたので、そこを避けて砂利の上を走った。
そして7周回目のその場所で、気が付いた時に砂利の上で…『固』
薄暗い雨の中、周りには誰もいない。
『転けちゃったよ』と小さく呟いた。
でも、立ち上がるしかない。
走れる状態であるコトを祈りながら立ってみる。
ゆっくりと走り出す。
うん、大丈夫。

両膝、両手、右肩、右頬を打ったらしい。でもそんなに痛くない気がする。
これなら大丈夫だ。

走りながら自分の身体を確認すると、泥まみれだった。
真っ白な勝負ウエアがドロドロ。
サングラスはどこかに飛んで行ってしまったようだ。そしてほどなく4kmエイドに着いたので、コップの水を両手と顔にかけて泥を落とした。あとは雨が流してくれるはずだ。
暗闇の中で泥まみれの流血したランナー。
すれ違うランナーやポイントに立ってくれているコースの係の方、エイドのボランティアの方の私を見る目が違ってくる。
すっかり会場を鬼気迫る雰囲気に変えてしまったようだ。

でも、ここから、この75kmからが『ウルトラマラソン』の始まりだと私は思っている。
足は重たくなり、前へ進まない。
ペースも5分40秒〜45秒あたりに落ち込む。
でも焦ってはいけない。
1kmずつを大事に大事に走った。

そして、ここまでずっと女子2位で走っていたのだが、87kmあたりで前へ出れた。
順位は全く意識してなかったけれど、ここまで来るとトップを譲りたくはない。。
でも、私が欲しいのは優勝じゃない。サブ9.5だ。
最後の周回が来た!
タスキを掛ける。
辺りはもう真っ暗で街灯もない。雨はバケツをひっくり返したように降っていた。
苦しくて頭が振れ出したのと雨の重みでバイザーがズレてくる。
近くにいしだっとクンがいたのでバイザーを預けたのはいいが、益々雨で目がしっかりと開けられない。
6分ペースを維持するのがやっと。
後ろから、いしだっとクンの『絶対行けますから!スパルタのみんなの最後のように絶対諦めちゃぁダメです!』の声が。

諦めないぞ。
絶対諦めない。
その時私は大きな声で叫んだ。『よしっ、Rinちゃん、行くよー』と。
今朝の一声と同じ言葉。
遠くにあったゴールの光が少しずつ少しずつ近づいてきた。

ゴールには待っていてくれる仲間の姿があった。
『女子1位のランナーが帰ってきました〜!』のアナウンスに思い切り左の拳を振り上げガッツポーズをした。
右腕は転倒の時の痛みでて上がらなくなっていた。

ゴールに飛び込んだ私を仲間が輪になって囲んでくれた。
9時間29分22秒。
『やったー!切れたよ。やったよー』と何度も何度も繰り返した。
みんなは自分の事のように喜んでくれている。
そして、私の肩に暖かいモノがかけられた。
健チャンがサブ9.5達成した時の為にと用意しておいてくれたフィニッシャータオルだ。
暖かかった。とても暖かいモノに包まれている私は本当に幸せだった。



長い長い完走記になってしまいました。
応援に来てくれたyokoyanさん、yuzuさん、ヤグチャン、江戸一RCの会長始めメンバーの皆さん、きたむぅ(甲州街道215kmを完走された足でそのまま来てくれました!)…どうもありがとうございました。みなさんの応援が力になりました。
会場に来てくれた☆の仲間、健チャン、みっちゃん、ネネちゃん、吉岡くん、いしだっとクン、hide…雨の中の長時間に渡るサポートありがとう。最高の仲間です!
メールや掲示板で応援して下さったみんな…熱いメッセージをありがとう。

Rinチャン、私に勇気をくれてありがとう。いつも一緒だったよ。

そして最後に、この一ヶ月半の間、私を導いてくれた西村コーチ、本当にありがとうございました。
コーチのおかげでこの記録を達成出来たと言っても過言じゃありません。
ランナーとしてまた一つ大きくなる事が出来ました。本当にありがとうございました。