『良一さん』

彼からレース1週間前に届いたメールは『足が痛くて走れない』

もしかしたらDNS?
それともスタートはするけど数字は狙わない?

彼は『走るよ、240を狙う』との返事。

そしてレース前日『痛みなく歩けるようになった』
と。
こんな状態で走らせていいのか…。
狙いにいくスケジュールを進めていいものなのか。

でも私はあくまでもサポート。
これは彼のレース。
選手の彼が走ると言ってるのだから、私は出来るだけのサポートをするしかないのだ。

私が会場に着いたのはレースが半分を過ぎた頃。
本部に向かってコース上を歩いていると向こうから来るランナーの影が。近付いてくるランナーの体はヒョコヒョコ走り。
半分でこんなにダメージあるんじゃぁこの選手はもうダメだなって心の中で思った。
その瞬間…心臓が飛び出るくらいビックリ。
まさかとは思ったけど、その影は良一さんだったのだ。
私は小さな震える声で『良一さん…』と声を掛けた。

それから、闘いは始まった。
痛み止めを飲んでもらう。痛み止めは1時間くらいしか効き目がなかった。
しかも薬のせいか給食を取っても吐いてしまう。
痛みを押して走り続けてもらう。
もしかしたら今までの痛みが嘘のように消えてフルスピードで走り出せるかも知れない。


だが現実は甘くなった。
痛み止めをもう一度。
先ほどの痛み止めとは違う種類。
また少し走れるようになってきた。
そしてまた嘔吐。
足の痛みと胃腸障害が交互に襲う。
疲れからか眠気が強く蛇行走行したり、植木に突っ込みながら周回を重ねる。

240という数字も自己ベスト更新も狙えなくなってしまった状況で彼は何を目指せばいいのか。

計算して出した数字が220。
この数字に意味があるのか…。


でも彼は走り続けた。
時にはコース上で一番速いラップで帰ってくる周回もあった。
何がここまで彼を走らせているのか。


24時間という長い闘いが終わった。
記録という勝負には負けたけれど、24時間走という競技には負けなかった。
タラレバは勝負の世界では禁止だが、足さえまともな状態だったらもっと闘えたはずだ。
この状況下でこれだけの走りが出来るのだからきっと次こそは、やってくれるはず。
まだまだこれから。