SPARTATHLON 2007 サポートマジック


帰国後たくさんの方から完走のお祝いをしていただきました。

自分で好き勝手に走っているだけなのに、こんなにたくさんの方が喜んで下さったコト、嬉しい。
素直に…嬉しい!ただそれだけです。

練習はほぼひとりで行いましたが、実際には多くの方に支えて頂いての練習でした。
私はただ走っているだけで良かったのです。

私ひとりの完走じゃない。
私ひとりだったら完走出来てない。

お祝いの中の一つがこのTシャツ。袖に刺繍がしてありました。もったいなくて着れない〜。大切にしますね。


■CP.52(172km)ネスタニ村
05:45(22H45')

サンガス山を降りてからは冷え込みが厳しいという話しでしたが、今年はそれほどでもなかったようです。
このCPでサポート隊に預けていたサングラスと帽子を受け取る予定でしたが、ここでも私の荷物は前のサポート車に届いていませんでした。
このあと夜が明けて日が昇ればどんどん気温が上昇してくるはずです。
“じゃぁ次のCPでは届いてるよね?絶対ねっ。”とサポート隊に確認し出発しました。
時計を見ると6時前。
スパルタスロンの常連ランナーさんと前半に少しだけ併走させて頂いた時に、
“サンガス下って1時間の余裕があれば完走が見えてくるからね”と教えてもらっていました。
よしっ、このペースなら大丈夫です。

でも、何があるか最後まで分かりません。

途中で『ウォーン、ウゥゥゥゥゥオーン』と犬の声がしています。
でも犬の遠吠えには聞こえない…狼といってもいいくらいじゃないか!
姿は見えないけれど、声だけで威嚇は十分な迫力なのです。


やだなぁ。
とうとう野犬が現れたか…。
でも前後の見える範囲にランナーがいたので何とかなるはず。

結局、吠えていたのは野犬ではなく畑の看守犬でした。
柵の中から吠えているので襲ってはきません。
なのに後ろにいた外国人の男性が柵の中の犬に向かって大声で叫んでいます。
煽らないでくれ〜。
もしミラクルジャンプでもして飛び出して来たらどうするのよ…。


とうとう7時を過ぎ夜が明けました。
日差しが少しずつきつくなってきたので、ヘッドランプのライト部分だけを取り外し、ベルトに持っていたハンカチを挟んでバイザー擬きを作りました。
後頭部にハンカチが掛かって日除けをしてくれるだけでも体感温度は違います。
この日は結局37度くらいまで気温が上がったそうです。
1日目が35度と聞いているので今年のスパルタは暑い・熱い…闘いとなったわけですね。
ただ私は初めてのスパルタなので例年と比べようもなかったので、こんなものなのかなぁ〜と思いながら走っていました。
とにかく、水分・塩分摂取だけには気を付けていました。
コーラボトル1本をウエストポーチに、ミネラルウォーター1本を手に持つスタイルで走ります。
CPが3km置きくらいにあるのでその繰り返し。
そしてCPにある塩がまぶしてあるクラッカーをわしづかみににしてポッケに入れて走りながら食べました。
このクラッカーかなり私のお気に入りになりました。どこかで手に入らないかしら?
あとは前半と同じでアスリートソルト、塩飴と梅干しをこまめに取り乗り切りました。


■CP.60(195km)テゲア
9:11(27H11')

坂本さんツアーサポート隊の皆さんに最初にお願いしたのは、胸に出来た擦り傷。
男性ランナーには分からないかも知れませんが、この胸の擦れにはみんな苦労してるんですよ。
私はキネシオテープを張り、ハンカチを当てていました。ハンカチも途中何度も取り替えました。
それでも擦れが出来てしまい、どんどん範囲が広がり、今や胸全体が真っ赤に擦れて、
ひどいところは出血していました。
汗がしみるともう痛い、痛い。
毛布を被り着ていた長袖からCW-Xの半袖シャツに着替え、この時にジョグブラは外すことにしました。

これで…とうとうノーパン、ノーブラになっちゃいました!
ノーパンはスタートした時からなんだけど私は直接タイツを履く派です。
パンツの股擦れは胸より辛いので履かないことにしているのです。
スコートはノーパンを隠す為でもありま〜す→あぁ、バラシチャッタ!

サポート隊の中川くんに“私ブラ外すから”と告げると、彼は器用にバストトップに貼るシールをテープで作ってくれました。
“はい、これ。このテープは肌に優しい特殊なテープだからこれなら痛くならないからね”と。
次にセカンド・スキンをカットして“はい、これ胸の傷にあてて”と。

中川くん…30歳そこそこの男性。
んー、普通ならこんな若い男性に胸のケアをお願いするなんて恥ずかしい限りなんだけど、もうそんなこと言ってられない!
そしてスッキリとした胸になり、ついでに歯磨きもしてちょっとリフレッシュ。


私が“夜中から下痢が止まらないんだよね〜”と話すとすかさず“はい、正露丸飲みな!”
えっ…この臭いも形も味も全部大嫌いなんだけどと躊躇してると、“これは戦争の時に日本の兵隊さんたちが使っていた薬なんだよ!絶対効くから”と。
黙って飲みました→嘘みたいだけど、このあと本当に下痢は止まりました。

日焼け止めをたっぷり塗り込み、さぁ出発。



そして、ここからが大変でした。
長い…長い…長い…。
走ったり歩いたりしながらCPを目指します。
ゴールがCP.75なので、あといくつ、あといくつと何度も声を出しながら数えました。


200kmを超えた時に時計を確認したら28時間くらいだった気がします。
あぁ〜すー。さんは去年はこれくらいでゴールしていたはず。
私はこれからまだフルマラソン1本ちょっと走らないといけないのに…。
リピーターの人も毎年こんな苦しいことやってたの?信じられない。
スパルタの町が果てしなく遠い気がしました。


“あの日陰のところまでは頑張って走ろう!”と思った3秒後には“もういい”と歩き出してしまいます。
“次のあの看板まで行ったら走り始めよう”と心に決めたのに看板過ぎたら“次の看板にしよう”と変更してしまいます。

どんどん走りたくない、走れない病になってきました。
やがて強烈な眠気が襲ってきました。

『プッ、プッーーー』と頭の中で大きな音が鳴りました。
はっ。
眠りながら走っていたので知らない間に道路のセンターライン方向に飛び出していたらしく、対向車がクラクショを鳴らしてくれたのです。
あーっ、危なかった。
気を付けなきゃ。

でも数分後には、ゴツンと何かにぶつかります。
またまた眠ってました。
今度は道路のガードレールに体当たりです。
でもこれにぶつかっていなければ、私は道路下に落ちてました。
そんなことを繰り返しながらサポート隊の待ってるCPに到着です。


■CP.65(211.7km)スモール・ゼネラル・ストアー

“中川くん、眠いの。眠いの”と訴えました。フラフラしていました。
彼はサポート車からクーラーボックスを運んできました。
そして無言でミネラルウォーターのペットボトル2Lを1本を取り出し私の頭をゆっくりと下げ、キンキンに冷えている水を頭にかけます。

うわ〜。
…気持ちいい。


そして2本目。ジャーっと一気にかけてくれます。
その後に氷の塊を腕に乗せます。

ひぇ〜っ。
冷たい!
目が覚めた〜!(とその時は思いました)


“そろそろ明子さんがゴールする頃だから行ってくるね。明子さん優勝だよ”と教えてくれました。
嬉しい知らせを聞いて、ちょっと元気に。

でも、また走りを再開すると徐々に眠たくなります。
何とか凌ぐ為に対向車に手を振ることにしました。
こうすると車の中から手を振り還してくれたり、クラクションを鳴らしてくれたり、窓を開けて声を掛けてくれたりと何らかのアクションを起こしてくれます。
対向車が全く来ないと、また蛇行しながら半分寝てましたが…。

1000mくらいあるアップダウンのきつい峠はほぼ歩きました。
歩きながら思ったことは、“もうこんな辛いレースは2度といやだ。でも、これでもし完走出来なかったらもう一度スパルタ走らなきゃいけなくなる。その為にも絶対今回完走しなきゃダメだ”と。


■CP.68(222.5km)処刑場記念碑
13:46(31H46')

ここには後ろのサポート車が来てカバーしてくれていました。
蛇行しながら走っている私を車で抜いたらしく、日陰に毛布を敷いて今か今かと待っていてくれたようです。
熱中症、眠いどっち?”の質問に“眠〜い”と答え毛布にばたっと横たわりました。
“5分したら起こして下さい”と告げ、3秒後には寝落ちしました。
その間もサポート隊の皆さんは私の首筋や足や手などに氷を当てて冷やしてくれていたようです。

坂本さんが“5分経ったよ”と優しい声で起こしてくれました。
そしてまた冷たいお水をボトルごと頭にかけてもらい、キンキンに冷えたレッドブルーを一気飲み干しました。
もう、大丈夫!
これで本当に生き返りました。


もしサポート隊がいなかったら…私はここでレースを投げ出していたかも知れません。
みんなが私を走らせてあげたい、完走させてあげたいの気持ちでサポートに徹してくれているのが伝わってきました。
本当にありがとうございました。


■CP.72(236.2km)シェルGS
明子さんのゴールを見届けた中川くんとえいちゃんが戻って来てくれていました。
ここがサポート隊と接触出来る最後のCPになります。
笑顔で手を振りながら待っててくれた彼等の姿を見ただけで、ちょっと泣きそうです。
でも、まだ泣くのは早いよね。


えいちゃんが濡れた冷たいタオルを肩に掛けて身体を冷やしてくれます。
そして中川くんは氷で関節を冷やしてくれました。
両ポッケにも氷をいっぱい入れてくれました。
“この氷を手に握って走ってみて。楽になるから”と。

“あとCP2つだよ。そして…ゴール。ここからは楽しんで走っておいで。…最後の直線は泣いちゃうよ〜。”と中川くん。
3人とも笑顔、笑顔です。
私は“泣かないもーん”と強がりを言って、“じゃぁ行ってきまーす♪”とCPを後にしました。


坂を降りればそこはもうスパルタの町です!