さくら道国際ネイチャーラン『三姉妹物語』第二話

もう気が付けばあのさくら道から一ヶ月が過ぎました。
この間、忙しすぎて記憶がどんどん薄れてきてしまってます。
でもね、今でも身体の芯に残るダメージがちゃんと私のさくら道を覚えているのです。


白鳥のCPを出て駅前のトイレに行こうとしたら、後ろから猛ダッシュで可愛い外国人の女の子が追い掛けてきました。
選手のご家族かなぁ。
トイレットペーパーが切れているからと自分のポケットからティッシュペーパーを取り出し使ってくださいと渡してくれました。
なんていい子なんだろう。
ほんとは自分のウエストポーチにはティッシュがあったんだけど、あまりにも嬉しくて使わせて頂きました。ありがとう。
このさくら道にはこのような小さな優しさが溢れています。


そして再び走り出してすぐに突然やってきた!
そう私のウルトラの最大の弱点であるピーピーちゃん。
迷わずGSに飛び込みました。
あ〜あ、またコレとのお付き合いが始まるんだと思うと戦意消失です。
食欲はあるし気持ち悪くはないのですが、ほんとに突然きゅきゅ〜んとお腹が痛くなり何度も波が訪れるのです。
とりあえず正露丸を飲んで凌ぎます。


そして夜を迎えヘッドライトを装着。
この姿、絶対非日常的過ぎます。
走る女は美しい♪がテーマの私にとってかなりイケてないです。
しかも、このイケてない姿をさくら道のビデオを撮っているカジノさん車に見つかってしまいました。
当然だけど車を振り切れるはずもなく500mくらい横付けされて撮影されました。
髪型が気になり一生懸命治しているのですがなかなか思うように出来ません。
すると『暗くて髪型までちゃんと撮れてないから心配しなくていいよ』と。
どうかこれが来年のさくら道ビデオに映っていませんように…。
それにしてもこんな夜道を一人で行くのは怖くないかと聞かれたら、怖い!めちゃくちゃ怖いに決まってます。
突然後ろから現れるランナーにさえビックリなんですから。
でも、仕方ないですよね。自分で走ることを選んだのだから。
こんな時に横を通り過ぎて行く大会運営車や自衛隊の車がどんなに心強いことか。


コース最高地点である『ひるがの分水嶺』が近付いてきました。
ここへの上りはnaoちゃんから走れるよって聞いていたのでゆっくりペースだけど走って上ります。
妹二人は今どこを走っているんだろう〜。
トイレに何回か行ったのがかなりのロスでそろそろ追い付いてきてくれそう。
前を走っていると後ろのランナーの情報はなかなか伝わってこないのだけど、人気者の妹二人はどこを走っていても目立つのか、私が『後ろから女の子二人来てませんか?』と私を抜いていくランナーや応援の方に尋ねると必ず答えが返ってきます。

10分くらい後ろだよ〜。
マッサージ受けてたよ。
笑って楽しそうに走ってた!
焼き肉食べてビール飲んでたよ→これはきっとnaoちゃんだな。


ひるがの高原を越えると今度は下り。
ここで右膝が痛くなり始めました。歩きに近いペースでしかいけません。
下りは飛ばすとダメージが後から来るからゆっくりの方がいいよと聞いてたけど、いくら何でも遅すぎます。
もう、や〜めた!と投げ出してしまい、焼き肉エイドでオッチャン達とビールを飲み宴会したいです。


そして待ちに待った第2CP143kmの荘川桜に到着です。




これだよ、これっ。
会いたかったんだよ。
思っていた以上に大木でした。
残念ながらまだ蕾だったけど粋な計らいでライトアップされていたので、まるで咲いているように見えるのです。
桜の前ではなんだか不思議なパワーを感じます。
まるで魂が宿っているようです。
いつかレースとは関係ない時にここを訪れて満開の荘川桜を見てみたいな。
そして次は白川郷を目指します。
この夜には気温表示を二カ所で見た記憶がありますが最初が5度。次が4度だったかな。
予想していたほど気温は低くならなかったので寒さに弱い私としては良かったです。
ただ走っているとそうでもないけど、歩いたり止まったりすると一気に身体が冷えます。
夜中に通過するエイドにはストーブが用意されてあり暖かい食べ物や飲み物があるのでついつい長居をしてしまいますね。


白山タクシーのエイドでは大判タオルをわざわざストーブで温めてくれ、ぬくぬくしたそのタオルを身体に掛けてくれました。
しかもちょっとお酒をお召しになったと思われるオジ様の手厚いマッサージ付き&お酒の熱い息付き。
オジ様にお礼を言ってエイドを出ます。


また一人の時間が始まりました。さくら道のコースにはたくさんのトンネルがあったのですがこれが一番心細かったです。
トンネルと洞門が終わっては始まり、終わっては始まりでいくつもいくつも続くのです。
同じところをぐるぐるしている気がしてきます。
トンネルのオレンジ色の光りがなんだか怪しいし、洞門の薄暗さがなんだか別世界に迷い込んだような感覚なのです。
同じペースの方を見付けては引っ付いて走らせてもらおうと思うのですが、私がゆっくりペースなのですぐに置いていかれちゃいます。


そしてまもなく第3CP172.6kmの『道の駅』白川郷
ここの直前でおトイレ問題がピークを迎えました。
しかし中々トイレが探せない〜。絶対ここは有名な観光地なんだからあるはず。
やっとトイレの矢印がある案内板を見つけました。
さっき走ってきた方向だ。見逃したんだ。迷ってる暇なんかない逆走です。
その不審な行動をしている私の姿を見つけたabiくん。
コースを間違って走ってるのではなくトイレを探していることを伝えます。

abiくんは親切に『あと次のエイドまで2kmくらいです。そこにはトイレありますよ』と教えてくれました。
でもね、ダメなの。2kmって言ったって15分はかかるのよ。もうイマイマなんです。
せっかく教えてくれたのにごめんね。


そして夜が明けて少しずつ明るくなってきました。
日本昔話に出てくる風景が広がってきます。
ここでまったり出来たらいいのになぁ。


五箇山を上る前の五箇山タクシーエイドではカレーが評判のようです。
私はまたお腹が痛くなるのが怖かったので最初は断ったのですが、みんながおいしそうに食べているのを見てついついつられました。
『一口だけカレーいただきます!』なんだか久しぶりにお米を食べたので元気が出てきたぞ。
さぁ、五箇山と勝負だ!上りなら膝も痛くないっ。
でも気合いも最初だけで走ったのはほんの少しでした。歩きがほとんどです。
雪が残ってる山々の景色を眺めながらゆるゆるとのぼっていきました。


でも、ほんとに大変だったのはこの後の五箇山トンネルでした。
3kmのトンネルなんですが5km以上続いたようなとんでもない長さのトンネルだった気がします。
眠気が一気に襲ってきました。
ふら〜ふら〜蛇行しながら進んでいったので危ない危ない。
狭い歩道から落ちて車道に出たりしたらどんなことになっていたことか。
バイクや車の音の轟音で耳をふさぎながら走ります。
眠い、眠い、眠い。
ほんとに完走出来るんだろうか?いやいやここまで来たら絶対完走しないと。
やっとやっと、ほんとにやっとトンネルを抜けた時は大声を上げました。
『終わったよ〜!何なのこのトンネル。長すぎだよ〜』と一人でキレまくります。



それから一気に下り坂。
下りになると膝はやっぱり痛いけどその分痛みで眠気は覚めました。
なのに下り坂の途中でまたお腹イタイタ。
絶妙のタイミングでコース上にあった工事現場の仮設トイレを発見。
工事の方の姿はないけれどカギは開いてるので使わせてもらいました。
切羽詰まればなんだってやっちゃう自分が怖い。


第4CP212km大鋸屋に到着し、お着替えタイム。
気温が高くなりこのあと相当暑いだろうけど半袖になると日焼けのダメージが怖いので長袖にしました。
情報に寄ると今下ってきた坂の途中には妹二人がいるらしい。
待ってようかな。5分もしていればくるかな?
のろのろしながら着替えてソックスを履き変えたら、左の人差し指に大きな血豆が出来てました。
えいっ、潰しちゃえ!とゼッケンの安全ピンでブスッ。
エイドのお兄さんに絆創膏をもらって処置終了。

けれど、二人はまだ来ない。
待てよ、どんどん間隔が近くなっているってことは私の方がペースが遅いってことだ。


だったらここで待ってても、一緒に走り始めて残り40kmを私は二人に必死に着いて行かないとだめじゃん。
私はこれ以上ペースはあげられないので、がんばる距離を少しでも短くするためにはもう少し先で合流したい。
働かない頭でいろいろ考えてエイドを後にしました。


もうここからはフル1本の距離です。
まだ頑張れるって気持ちともう頑張れない気持ちが交錯します。
そんな時に私に向かって手を振を振る人が!誰かな?
あっ、バニーさんです。
昨日の白鳥でのエイドボランティアを終えてゴールの金沢・兼六園に向かう途中でした。
弱っていた私は言葉はほとんど交わせませんでしたが、彼女から『頑張って、もう少しだからね。兼六園で待ってるからね。』の言葉に頷きます。


道の駅『福光』223.4kmでは、kotomiちゃんの旦那様のマックの姿がありました。
彼はさくら道を優勝したこともありさくら道のことは知り尽くしています。
参加前にも『初めてのさくら道だから33時間台のゴールを目指すといいんじゃないか?』とアドバイスをくれ、その設定で各CPの到着予定時間を決めました。
ここでも『あと4時間でゴール出来るから。県境のアップダウンは無理しないように』と簡単に、でも的確なアドバイスをくれました。
私は『もう辛いよ…。スパルタより楽だって聞いてたのに、これはこれでめちゃくちゃ大変じゃない。ここで2人を待っていたい。もうすぐくるよね?』と聞くと『だめだよ、行きなさい。まだ時間かかるから先に走りなさい。2人も辛い時間帯になってるけど頑張ってるんだから』と。

そうだよね。あの2人だって今すごくすごく頑張ってる。
姉の私がへこたれて妹に頼ってどうするんだ。
しっかりしなきゃ。
一緒にゴールしたい気持ちよりも一緒に走って楽したいと思っていた自分の心の甘えに気付きました。

ここから必死で走った。必死で歩いた。
県境は確かに小刻みなアップダウンが続き、気温もどんどん上がり、あとエイド5か所、4か所、3か所…と次のエイドのたどりつくことだけを考えて前へ進んだ。
あるエイドのスタッフの方が、私のゼッケンの名前を読み上げ『ブログやってませんか?さくら道のことを検索してたらあなたのブログにヒットしたんだよ!ここに来てくれるのを楽しみにしてたんだよ』と。
こんな風に私を待っててくれた方もいてくれたんだと思うと本当に嬉しいなぁ。

また東京からわざわざ応援に来てくれた走り仲間のpayutaさんにも会えました。
彼は兼六園から大鋸屋まで逆走しながらの応援ラン。
嬉しくて、嬉しくって大きく手を振ってみせます。元気じゃないけど元気な姿を見て欲しくてぴょんぴょんジャンプしてみせます。
ここまで来てくれて本当にありがとう。



兼六園3kmの道路案内板が見えました。
大したスピードも出てないのに、息がはぁはぁと上がります。
身体はヨロヨロとしたり、悪い癖で右に傾いたり、突然ガクッとなったりともはやコントーロルが効きません。
もうすぐだ。もうすぐ!ゴールが近付いてます。
自分の足だけで本当にここまで来たんだ。


そして、兼六園入口の交差点でレース中、車で移動しながらずっと応援してくれていたグループの方に会いました。
後から知ったのですが、彼女たちはTクンという男性の応援団でした。
この方々から『綺麗だよ。本当に貴女は輝いてるよ。こんな細い身体でよくここまで来たね。頑張ったね。』と言って頂き、とても美しい水仙の花束を頂きました。
初めて会った方々にこんなに応援してもらえるなんて…嬉しくて涙があふれます。

さぁ、あとは佐藤桜にタッチするだけ。
最後の直線では先にゴールしていたちぃさん、応援に来てくてたマック、バニーさん、N野さん、T津くん、きのこちゃんの姿が。
スタッフの方や自衛隊の方も拍手で向かい入れてくれました。



涙が止まらない…。
やっとたどり着けた。
長い道。
さくら道。


33時間20分
佐藤桜にタッチ。
私のさくら道が終わりました。