心の故郷の山・武甲山
2010年6月6日。
『 第1回NATHAN秩父の名峰・武甲山トレイルラン』
この大会は、最初の立ち上げから係わらせてもらったこともあり、私にとっては今までになく、思い入れの強い大会として臨むことになりました。
今大会のレースコースが、私を『山女』に導いてくれたと言っても過言ではありません。
2009年1月12日。
忘れもしません、この日が武甲山との出会いです。
雪化粧した武甲山を見ながら、羊山公園、琴平ハイキングコースへ。
ハイキングコースだと聞いていたので、ランニングシューズで走ることに。
トレイルに慣れていない私にとって、これはハイキングコースではなく、おっかなびっくり緊張の連続。
雪道で何度も転倒しました。
それでも、その先にあるものが気になって仕方ありません。
その後、岩井堂、観音さま、大渕寺、橋立堂を巡ったのですが、上手く表現出来ませんが、なぜだかお山の神様が私を手招きしてくれたような不思議な気持ちになったのです。
今から思えば、それは武甲山の神様だったのかも知れません。
それを機に、私の奥武蔵通いが始まりました。
秩父札所巡りをしたり、奥武蔵の山へ登ったり、グリーンラインを駆け巡ったり、気がつけば奥武蔵は私の第2の故郷の地になりました。
そんな私をいつも温かく大きな力で見守ってくれていたのが、武甲山。
初めて武甲山に登ったのは、2009年5月24日。
この時、一人で山に向かったのですが、羊山公園→琴平ハイキングコース→大渕寺→橋立堂→武甲山頂→生川→横瀬駅→羊山公園のルート。
そうです、今大会のレースコースである前半部分とラスト8kmを走っていたのですね。
山地図を持って行ったのにもかかわらず、武甲山の登山口を少し行った分岐で難しいルートを選んでしまい、大変な目に合いました。
天候は小雨。沢沿いにある道はほとんど幅がなく、ガスって先は見えないし、背丈ほどある草を掻き分けながら半泣きで登りました。
30分ほど進んだところで、これでは危ないと引き返しました。
引き返しながら、素人に近い私がよくぞこんな危ない道を通ったものだと、足をガクガクさせながら下りました。
だからこそ、山頂付近に到着した時の達成感と、幻想的な景色は、心に焼き付いています。
武甲山の真ん中に、すっぽり包み込まれているような感覚でした。
2009年12月29日。
本格的にこの大会に向かって一つずつ動き出しました。
羊山公園に行き、スタート・ゴール地点を決めました。
目をつぶって想像します。
この芝生広場を意気揚々とスタートするランナーの姿。ここに充実感いっぱいでゴールするランナーの姿を。
それだけで、ただ胸が高鳴ります。
2010年1月23日。
初めてコース通りに全試走です。合わせて距離計測も。
私はこの時、武甲山の登山口でヘロヘロになりました。
登りが嫌いじゃない私でさえ、こんなに辛いのに、ランナーは本番でこの厳しいルートをどう進んでいくのかと思うと心配です。
また、妻坂峠はまるでジェットコースターのような下り坂です。
下りが苦手な私は足が竦み上がりました。
ランナーのみんな、どうかここで転倒して大怪我をしませんようにと願うばかりです。
翌日も、もう一度コースへ。
生川から妻坂峠→大持山→小持山→シラジクボとコースの逆走し、エイドを置く場所や車がどこまで入れるかを確認します。
また、開催までには市役所や警察署、協賛してくれるところ、そして会場である羊山公園、レースコースへ何度か足を運びました。
こうやって、一つずつを丁寧に積み上げて行くことで、やっと新しい大会が生まれるのです。
いよいよレース当日の朝。
この大会が無事に終わるために、一人でも多くのランナーが豊かな時間を送ってくれるために、私の全身全霊を込めて頑張ることを誓います。
9時30分のスタート時間が近づきました。
芝生広場のスタート地点には、私が想像したように、バックパックやウエストポーチを装備した520名のランナーが、意気揚々とスタートを待っています。
青い空、新緑の木々。
見上げると武甲山。
これから、あのてっぺんまで、みんなは登ります。
武甲山の神様。どうかこのランナーのみんなを温かく見守ってください。そして受け入れてください。
カウントダウン。
私の声がマイクを通して会場に響き渡ります。
1分前。30秒前。10、9、8…5、4、3、2、1、スタート!!!
ピストルの号砲と共に、ランナーが飛び出して行きました。
いってらっしゃい〜。
私にとっての大切な武甲山トレイルレースは、この瞬間に、ランナー、ボランティアスタッフ、大会関係者、応援の皆さんと豊かな時間を共有するレースとなったのです。
制限時間7時間半、17時を持ってレースは終了。
最終ランナーをゴールアナウンスをしながら迎えます。
笑顔あり、ガッツポーズあり、涙あり、達成感あり、疲労困憊あり。
ランナーの一人ずつが、一人ずつの自分のレースをしてのゴールだったと思います。
『いい顔』をたくさん、たくさん見れました。
そして、そんなランナーを見守り、受け入れてくれた武甲山。ありがとう。
武甲山の姿は、半分は削られた痛々しさがありますが、もう半分は美しい自然がたくさん残っています。
そんな武甲山は、やっぱり私にとって美しく、温かい、立派な山です。
いつまでも、変わらずに、大きな山でいてください。
見守り続けていてください。
私の心の故郷の山でいてください。
<会場から見た武甲山>