スタート

4月1日。
やっと今日から大学生の息子。

20年ちょっと前に誕生した息子「夏樹」。

実家の窓から見えた大きな木。
名前も知らない木。
夏になると、それは見事なくらい深く濃い緑々した葉をいっぱいに伸ばしています。

夏樹という名前はそこから取りました。

小さな頃から大人しくいつも本ばかり読んでいました。一番大好きなのが日本地図。

そして、何を思ったか「私立中学校に行きたい」と言い出した。
そこからは親子で受験勉強。
自分の受験の時より勉強しました。御三家と呼ばれる男子校に合格。

入学してからの6年間は遊んでましたね。きっと私に言えない悪い事をたくさんしてきたでしょう。

そして、卒業後は予備校へ。
まだ遊んでました。
受験は全て失敗。


速達で届いた手紙には「出来の悪い親不孝な息子で申し訳ない。勝手だけど色んなことを考える為に少し出掛けてきます。突然の醜態どうかお許しください」と。
行方が分からなくなりました。

数ヶ月して一旦戻ってきて、またどこかへ行ってしまいます。
戻ってきても夜遅く帰ってきて、私がいない間に出掛けます。
部屋に引きこもり、ほとんど顔を合わすことがない一年でした。


私はどこでどう育て方が間違ってしまったのだろう?
悩みました。自分を責めました。親不孝ではなく、子供を不幸にしているのは私?

私に出来ることは、彼を信じること。見守ること。
それだけでした。

彼は彼なりに試練を闘っていたのでしょう。
今まで苦労もなく、色んな事がうまく行き過ぎていたのでしょう。

結局、志望校には合格出来ませんでしたが、大学生になることを決めた日。

「ありがとう。今まで俺がすることを黙って受け入れてくれて。感謝しているから」と。


本当なら、4月1日入学式。
地震で中止になりました。

私は仕事の帰りに立ち寄りました。彼のスタートを一人でお祝いしました。


おめでとう!
あなたの人生です。
自分で切り開いたスタートです。
どうか、あの日の大きな木になってください。
あなたしか、あなたの木になれないのだから。

私はこれからも、信じて見守って行きますから。
私の息子だから。